ふるさと(故郷) 

 舞台は若狭の「冬の浦」周辺 金髪の女性が交番を訪ねる処からスタートする。この村出身の女性がアメリカから京都の経師屋へ研修に来ていた青年と恋におち、親父の反対を押し切ってアメリカに・・・その娘が小さいとき別れた母を求めて冬の浦交番に訪ねてくるシーンである。何でも小さい時一・二度は在所へ来たことがあるらしく交番周辺から見る海辺のシーンがその頃を思い出させ眼に涙を浮かべる。突然の来訪者に部落総出で歓迎する様をつぶさに描いている。難題は言葉で大学出の和尚・郵便局のお兄さん・更には原発誘致で働きに来て居て、農家の嫁になったフイリッピンの女の子が奮闘する。一人になってひねくれ者になっている爺さんも何時かは打ち解けて元の生活に戻って行く。
 話の本流は母を探して会うこと(最後には会えるのだが)ではなく、一人で別れた母を探しに行く金髪娘に同情し、交番を訪ねることと、交番に事情をしたためた手紙を持たせた,やはり日本をあきらめて二人で渡米した夫婦の物語に転換してゆく。
アメリカで日本食の支店を任されている夫婦は、一人で若狭の片田舎まで別れた母に会うための一人旅と知り、しかも母がいるとも限らない冬の浦を目指していることを知り、同情して親身になって心配してやっている。
 このことが、言葉も分からない金髪娘を勇気付け、お巡りさんも即対応をしてくれた。
 この夫婦は父の法事に赴くため京都に行く途上で、法要後は出身地の丹後や、若狭の三尾を訪ねる予定があり、冬の浦で再会する。
 若狭を取り巻く環境は原発誘致で一変し、主人は原発で働いて金を稼ぎ、買った農機具で母ちゃんが農業をすることが定番になっていた。山中に原発道路も開通しいかにも近代化したかに見える。
 
小説の内容は兎も角、この夫婦は何れは帰国し本土で静かに暮らしたいとの願望を持っている。末娘の妻は、跡を継いだ次男夫婦が早死し、今は一人で暮らしている老いた母が心配で、出来れば三尾に住んで母の面倒を見たいと思うのだが・・・、夫はできれば原発のない綺麗な地を望んでいる。
 そうこうしているうちに母が急死し・・・地域伝統の葬儀が始まる。
 問題は後をどうするかで話し合うが、・・・・母が亡くなった今、介護の用が亡くなった今近くに住む必要もなくなってしまった。跡を継ぐ者が無い以上、売り払って分割する案も出たが、名古屋に居る長男の定年Uターンで片が付く。
 今の農業地域がどこでも抱えている問題点を見事についた作品である。原発の不確実性、安全性の心配も。